死別
熱海の温泉に一泊して来た。 コロナ禍で遠出自体が久しぶり…泊りがけでは何年ぶりだろうか… コロナ禍がなくても、夫の闘病が始まり、それどころではなくなったけれど、動けるうちにどこかに家族旅行を…と言う気持ちはあった。 しかし、筋力が落ち、気力も落…
ここまでの人生で最大の苦しみは夫の病と死だった。 この先、これを越える苦しみがあるとしたら…子を喪うことだろうか… そう思っていた、が、違う。 子が、誰かに陰湿にいじめられる… 多分、これが私に取っての最大のダメージだろう。 子はもう成人、だけど…
夫はバイク乗りだった。 私は原付バイクで通勤していた事はあったが、大きいバイクの後ろに乗るのは初めてだった。 まして後ろに乗せたことなどない、最初はわからず、運転する夫にしがみついたが、どうやって乗るのが運転しやすいのか尋ねた。 「しがみつい…
実家は、母の不機嫌が支配していた。 何か聞かれても、母の中の望ましい答えを選ばないと不機嫌になる。 面倒なので、なんでもいいと言うと、お前は自分の意志がないと責められた。 そのようなコミュニケーションに馴染んでいた私も、夫との生活で、無自覚に…
私は恵まれてる。 子どもは成人し、社会人となった。 残りわずかとは言え、家のローンも弁済になった。 定年まえだったから満額には届かなくとも、退職金も出た。 大分解約してしまっていたが、会社で入っていた保険からも支払いがあった。 堅実な夫は、一部…
ALSの告知と同時に早期の胃瘻造設を勧められた。 最初の症状が食事中のむせ込みだったので、食事が進まなくなっていた。 「今なら1つ押えられる、月末に造設手術の予定も入れられる」 主治医には言われていた。 だが、夫は胃瘻を拒否した。 私はネットで調べ…
思慮深く理性的で、時には利他的な夫は、人として私の何段も上で、自分を恥じる事も多かった。 子どもが生まれてからは、それでも子を最優先にはしない彼に不満も持った。 けれど彼には、巡り巡って結果的に我が子の幸せに貢献すると言う、大局的な愛情があ…
告知の場には、夫本人と私と息子の他に、私の弟1夫婦にも同席して貰った。 義兄にも連絡を取ろうとしたが、繋がらなかった。 弟には、大学病院に繋がってた時に、私がひとりで抱える事に耐えられなくなって電話した。 この病院は、弟2が生まれ、翌日に死んだ…
後悔なら枚挙に暇がない。 どれもこれも適切だった、良い手だったとは思えない。 その中でも大きな棘となり、日を追うごとに疼くのは、告知とそれに纏わる私の対応… 初見で疑われたALSの正式な診断の為には、いくつもの検査が必要だった。 それ以前に若年性…
今日、封印箱を開いて中身を整理した。 まとめて注文した方が安いからといろんな味が入ったゼリーセット、滑らかな食事を作るゼリー化剤、減っていく食事の量に追加する栄養剤等みんな廃棄する。 在宅医に頼んで処方して貰ったエンシュアリキッドも開栓して…
私は現在、精神科で抗うつ薬を処方されている。 死別から半年過ぎた今年2月から。 夫の在宅闘病中も、夜間トイレに数回起きるのに付き添う為、中途覚醒が習慣化していた。 死別後は更に入眠障害で、朝刊のバイクの音を聞く事が多かった。 それでも無職だった…
今日、日付が変われば昨日、父の4回目の命日だった。 なので、父の事を話そう。父は東北の田舎の貧しい鍛冶屋の末っ子だった。 長兄が跡を継ぎ、他の子どもは家を出て自分の食い扶持を得るのが習わしだった。 母親は父が少年の頃、病で死んだらしい。ずっと…
一周忌が終わったら… 納骨が済んだら… 先延ばしにして来た片付けを少しづつ…と思うけど、彼が使っていた日用品を、仕舞うなり捨てるなりして目に触れなくしてしまう事に、途方もない抵抗がある。まるで、もう居ないみたいじゃない… 体はなくても居るのに…! …
友人からLINEが来た。 郵便局から送った香典返しが届いたらしい。 もう着いたのか…と言う事は他の納骨お知らせ葉書も概ね届いたと言う事かな… ちょっと緊張する… 彼の事を思い出して欲しい、彼に想いを馳せて欲しい…その反面レスポンスに慄く… もう一周忌も…
2020年夏、自宅で看取った夫を昨日納骨した。ずっと家に置いても良かったが、私もいつ旅立つかわからない、その時に子の負担を少しでも減らしておきたいと考え、場所は確保し、期限まで1年余り手元に置いた。 今も、取り分けた手元供養の為の小さな骨壷は残…