絶対零度
昨夜、またあの日の事を考えていた。
あの日、もっと素早く吸引していれば…
蘇生処置が出来ていれば…
あの時、逝かなかったのだろうか…
遠くない先でその時は必ず来るとしても、あの時、回避出来たのだろうか…
もし、やれる事を全部やったとして、それでも引き留められなかったのなら、私はこんなに自分を責めなかっただろうか?
やれるだけやった…と、割り切れたのだろうか?
そうは思えないし、その為に、自分の後悔を減らす為になら、そうしなくて良かった…
私が、私の不手際が彼を逝かせた。
絶対零度とは零下273.15℃だそうだ。
その凍てつく事実は私の心身を爛れ溶かすとしても、この身をもって抱きしめたい。
それは唯一の、かけがえのない形見だ。
この、凍てつく想いを愛しく抱きしめながら、私はこの記憶ごと先へ進む。
自責を超えて、このままの私で幸せになる。
その存在を見ないまま、嘘つきのままでは進めない。
夫には夫の想いがあったはず。
あの時で、良かったのか?
もっと頑張りたかったか?
いや、本当は元気に戻りたかっただろう…
繰り返し苦しめたくなかった、と言えば綺麗事になる。単に見ていたくなかったのでは?
全部まとめて絶対零度に凍らせる。
永遠に持って行く。
無かったことにはしない。
大切な、私と彼の想い出、誰にも取り上げられない。
彼が以前と違う世界にいる様に、私も元の世界には戻れない。
大切な絶対零度と共に、新しい世界で生きて行く。