Mosquitoes regret

喪失と自責の記

引き継ぐ

前前記事と前記事の、グリーフワークサポートを受けた帰り道、いや、行きの道すがらも、沿道の空気や佇まいがとても好ましく感じられて、この道を息子にも教えてやりたいと思いながら歩いた。

所謂観光地だが、雨の平日午後だった事もあり、人の姿はまばらだった。



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面談を受け、目の前の人を信頼出来る、と自分の中に位置付け出来ると、この路の先のあの方に、我が子を繋げたいと言う気持ちが沸き起こった。

 

息子は特に困った事や悩みはないと私が聞いても面倒そうに返すだけだが、母親に辛さや悩みをこぼせる若者がそうは居ない事もわかっている。

夫が存命なら任せられた部分を、何処で賄うのか…

夫が信頼を寄せていた幼馴染みも、近所のボランティア仲間も、良い人で、困った時に頼めば力になってくれるだろう。

それでも、日常の中でぼんやりとした不安や不満が折り重なっていく漠然とした心の不調を吐き出せるかと言えば難しい…

夫や私を知っている人との関わりは、息子からしたら煩わしいものかも知れない。

今時の若者は、ネットで想像以上の情報に通じている、私のようなアナクロが心配する必要はないかも知れない…

それでも、私から、ひとつでも、信頼に足る相談先として、先のグリーフサポートを紹介して置きたい…その想いが固まって来た先週、紅葉を観に行かないかと言う軽い誘いに抵抗なく乗ってきたのを機と捉え、その場所までを同行させようと決意した。

話を聞いて貰いに行った事は話してあった。

そこまでの道の、趣きの面白さも本心からの言葉で語った。

当日は抵抗なく、一緒に会話しながら、沿道のレトロで素敵な店を興味深く覗きながら、楽しく迷いながら歩いた。

道々の紅葉も楽しみながら、その場所を示した。

中まで入り、本堂に手を合わせ、密かに用意してきた紙袋(グリーフの会宛のメモ付き)を受付の締まった窓の前の、人目に付く場所に置いて、声を掛けずに立ち去った。


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引き返す道で、私の気持ちを伝えた。

悩みや困り事の相談先のひとつとして、ここを君に繋げて置きたかった事、信頼出来る人だから、もし友人に困っている人がいたら教えてあげてね、と。

私もいつまても生きてはいない、ひとりになった君が頼れる人は、一人でも多い方が、私が安心なの。


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息子は黙って歩いた。

そんな未来を想像するのは辛い事だ、それはわかる。

だからせめて、そこへ到着する迄は、そんな母の真意は気取られたくなかった。

子の前では書けなくて、前夜遅くに便せんに向かって、過日の面談のお礼と、今日の行動について記した手紙と、渡しそびれたフォトブック『風葬記』、それに茶菓子を入れた袋をバッグの中に忍ばせて家を出た。

本当は、途中のデパートで菓子折りを買って行きたかったが、その時点で真意を隠す事が辛くなり、私は全部話してしまうだろう、そうしたら行きの道の気分は重たいものになってしまうだろう…出来ればそれは出来るだけその時だけに留めたかった。

家にあった廉価な袋菓子で申し訳なかったが、息子の心を優先させてもらった。

私はモスキートだから。


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帰り道は途中から来た道を逸れて、賑やかな観光客が増え出す道へ入って、久しぶりな場所にも行った。

紅葉も堪能出来て、良い一日になった。

私の思い付きからスムーズに事が運んで、和やかに帰路に付けたのも、みんな夫のおかげだと感じる。

夫が「それでいい」と頷いてくれているのだと信じる。

ありがとう。